中国旅行でキャッシュレス決済が使えなかったら大変!

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セルジオ筑後です。

2019年9月の中国旅行のお話です。

北京首都国際空港、午後9時15分。

スーツケースから粉ミルクを延々と取り出す怪しい日本人がひとり…。

機内で飲む青島ビール

機内で飲む青島ビール

「粉ミルク送って。15個ね」

いつものリクエストが来た。一人っ子政策が廃止された後、中国の田舎の方では出産ラッシュが起こっている。上海から故郷へ帰った友人たちに二人目の子どもが生まれたら、日本人たる俺の出番だ。

日本のベビー用品は信頼性が高く、中国では高値で取引されている。

そのため、日本に住む中国人の中には、近所のドラッグストアモリやコスモスなどでベビー用品を買いあさり、トンネル会社を通じて香港へ輸入し(香港は関税がほとんどかからない為)、それを中国大陸で売りさばく「代購ビジネス」に手を染める者もいる。

彼らは利益を出さなければならないから、「商品」が中国のECサイト「天猫」や「京東」に並ぶ頃にはそれなりの高値になっている。

決して違法ではないのだが、日本人としては、せっかくの高品質メイドインジャパンを外国人に労せずしてビジネス転用されるのはいい気持ちではない。

せめて俺の友人たちには、日本人が品物を買って使うのと同じ感覚で日本の製品を使ってもらいたいというわけで、中国の友人からリクエストがあれば、ベビー用品などを送るようにしている。

さて品物は揃った。あとは船便で中国へ送るだけだ。

「本日、ト○ンプ大統領は中国に追加関税を発動するとともに、為替操作国に認定…」

ぎゃああああああああああああああああああああ

料金は向こう持ちとはいえ、アラブの王子様の大ハッスルでただでさえ輸送費がアホみたいに上がっている上この仕打ち。

これだけ元安になると友人の負担がマッハで増えてしまう!これではいけません。

というわけで、今回別件で北京へ行くついでに粉ミルクを持っていき、空港から直接送ろうという話になったのだった。

季節はちょうど夏、俺のスーツケースにはたっぷりスペースがある。

 

日本から中国へ運ばれる船便は、川崎市に集積されて深センに到着し、そこから各港まで送られた後、税関審査を経て各地へ配送されるという仕組みになっている。

これだけ複雑な経路をたどるため、1ヶ月近くの時間がかかる上、最安の船便ですら6000円もの料金を取られる。

しかも、例えばウォシュレットの便座を未開封の箱のまま送ったりした場合、「商品」と判断されて友人が関税をガッツリ取られるという悲劇が起こりかねない(一敗)。

なので、中国国内から直接送るのが最もリスクが少なくてコストが安い方法なのだ。

万里の長城に行ってきました

万里の長城に行ってきました。

空港で入国審査を済ませた後、俺は運送会社のカウンターへ向かった。

腕が痛い。この重いスーツケースから早く解放されたい。

上海暮らしから福岡へ引き揚げたあの日を思い出す。30kgをゆうに超える生活雑貨を抱えて空港へ向かったあの日。

地下鉄の駅で腕が動かなくなり、昔佐賀県の人が経営していたスイーツ屋さんの店長さんに駅のホームまで荷物を持っていってもらった心温まる出来事。

あれから10年か。早いもんだ。あのスイーツ屋さんはもう無くなったが、店長は元気にしているだろうか。駅前不動産スタジアムに来てたら嬉しいな…などと考えていると、目の前に配達屋の看板が見えてきた。

 

「テープば貸してくれんね」

店の前に着くなり、持ってきたダンボールを組み立てて、その中に粉ミルクを詰めていく。配達員のごつい兄ちゃんが手伝ってくれた。

恐らく中国からの旅行客はこんな感じでお土産を送っているんだろうが、よくこんな重いもん持って帰れると思う。

誰に会いたいわけでもないのに勝手に震える手で送り状を書き、箱の上に貼り付けた。多少銭?

 

「71元だよ」

 

安ッ!!!

今のレートで1000円、日本の1/6の値段で送れる。1/6の旅人だ。苦労して持っていった甲斐があった、そう思いながら財布に手を伸ばすーー。

「支払宝(アリペイ)は持ってる?Wechatpayでもいいよ」

ごつい兄ちゃん略してごつ兄が、二次元コードが表示されたスマホを見せてきた。

中国ではスマホがレジの代わりになるのだ。

おお晴らしい、わがスマホはつい今しがたPaypayを導入したばかりなのだ。

ペイペイは確か最近アリペイと提携していたはず。

大人も子どももおばあちゃんもスマホ決済なこの世の中、ついに日本人はグローバルスタンダードに進出!

「バーコードが読み取れません」

なんでえええええええええ!

何度やってもエラーがでる。

提携とはいったい・・・。

「なんでそんなわけわからんアプリを使うんだ。普通に支払宝を使えばいいじゃないか」

「いや、俺外国人だから支払宝とか使えんとよ。百元はあるばってん、これでお釣りばくれんね?」

「えっ、お釣りなんてないけど…」

ごつ兄が困惑している。それもそのはず、店内よく見ると、なんとレジが無いのだ。

つまり、ここでわざわざ現金を支払う人間はいないのである。

ポイント還元とか、そういうレベルじゃない。

スマホ決済はすでに、中国での生活に必要不可欠なインフラになるほど浸透しているのだ。

とはいえ、お釣りはしっかり受け取らないといけない。

ごつ兄は財布からボロボロの20元札と10元札を取り出した。

なるほど、俺が101元を渡せばいいわけか。

それなら

 

1 元 足 り ね え

 

こんな時に限ってコインが一枚も入ってねえ!

いつもならバッグの中に何故か転がってたりするんだが、北京に来る前にバッグを整理したときに、ゴミと一緒にどこかへ消えた可能性が高い。

「ごめんばってん、これしかなか」

恐る恐る百元札を取り出す。

すまんごつ兄、日本はキャッシュレス後進国なんだ…と言うか、日本の銀行口座では中国の決済サービスは使えないんだ。

 

あとから調べたところによると、ペイペイとアリペイは確かに連携しているのだが、あくまで「ペイペイ対応の店でアリペイが使える」という提携とのことだった。(2019年10月現在)

つまり、日本へ来る中国人にとっては便利だが、日本から中国への旅行者や短期滞在者にとっては、あまり意味が無いのである。

一応LinepayとWechatpayも提携しているが、これも同じようなものだろう。

残念だが、これに対しては、現時点ではせいぜい交通カードやデポジットカードを買っておく、程度の対策しかない。中国のキャッシュレス社会の中で、外国人は置き去りにされたままなのである…。

逆に長期滞在者なら、行ったその日にでも中国の電話番号を手に入れ、銀行口座を開設することをおすすめする。

中国では入国後2日以内に公安へ住所を届けなければならないのだが、電話番号が無ければ口座の開設もままならないこの世界、長期滞在者が最初に行くべき場所は「中 国 移 動」だ(別に中国聯通でもOKだが)。

届け出ついでに行くと無駄が無いかもしれない。

逆に日本で商売する側としては、ペイペイなりLinepayなりを使えるようにさえしていれば、中国人がぎょうさん買うてくれるわけで、これを利用しない手は無い。

最近中国語で「万引きは犯罪です」「トイレはきれいに使って下さい」などと書かれているのをよく見るが、どうせ中国語を書くのなら「スマホ決済、使えまっせ!」と書いた方がよっぽど儲けに繋がると思うのだが、いかがだろうか。

 

「しょうがないな、ちょっと待っててくれ。お釣りをもらってくるよ」

ごつ兄は店内で荷造りをしていた同僚に声をかけ、小銭を集め始めた。

しかし、ここは中国、みんな小銭なんて持ってない。

結局、5分かかってようやくお釣りの29元が揃った。

小銭で迷惑をかける日本人。

これだけキャッシュレス化された現代中国にあって、紙のお札でどこまで行けるんだろうかーーのっけから先が思いやられる展開だ。

wechatpay

WeChatPay

荷物は3日後無事届き、友人からは大いに感謝されたが、あんのじょう、この旅は困難を極めた。

蘭州ラーメンの店に行けばお釣りがない。

スーパーで10元札を出せば微妙な顔をされる。

中国の友人と食事するとよくおごり合いになったりするのだが、財布を取り出している間に勝手にスマホで決済される。

結果的に友人との全会食が全て向こう持ちになってしまうという、なんとも申し訳ない結果になってしまった。

こんなことならもっと豪華なお土産を買っていくんだった。

じゃがぽっくりでは力不足だった。次はせめて博多通りもんくらい買っていこう。

ご馳走になりました。

ご馳走になりました。

その後もホテルの場所がわからず現地の日本人総経理に助けてもらうなど、

「本当に上海で生き延びてきたのか?」

と疑われてもおかしくないほど情けないシーンの連続だったが、なんとかホテルの部屋で一息つくことができた。

中国は変わった。ほんの10年足らずで、全く別の国になってしまったようだ。

大都市圏では、ぼろぼろの1元札を肉まん屋に手渡すような、牧歌的な景色を見ることはもうできないだろう。

俺は窓のない部屋で百元札の枚数を確認し、財布ごとポーチにしまった。

2019年11月5日に「アリペイ(支付宝)」が中国内に銀行口座を持たない外国人でも使用できるようになりました。

アリペイ(支付宝)が日本のクレジットカードからチャージ&使用可能に。詳しいやり方は?(HUFFPOST)

 

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